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最高裁判所第三小法廷 昭和29年(あ)1207号 判決 1957年2月12日

主文

原判決を破棄する。

本件を福岡高等裁判所に差戻す。

理由

職権をもって調べてみると、第一審判決は本件恐喝未遂の公訴事実につき、これを認めるに十分な証拠がないとして被告人に無罪を言い渡したところ、検察官は同判決は事実を誤認したものとして控訴を申し立てた。ところが、原審は公判期日において検察官の控訴趣意書のとおりの陳述と、弁護人の控訴は理由がない旨の陳述を聴いただけで、自ら事実の取調をすることなく審理を終結し、訴訟記録と第一審で取り調べた証拠だけで第一審判決を破棄して原判示の恐喝未遂の犯罪事実を認定した上、被告人を懲役一〇月に処する判決を言い渡したのである。しかし原審のかかる措置は、刑訴四〇〇条但書の許さないところであること、当裁判所大法廷判決(昭和二七年(あ)五八七七号同三一年九月二六日判決、昭和二六年(あ)二四三六号同三一年七月一八日判決)の趣旨に徴し明らかであるから、原判決は違法であり、この違法は判決に影響を及ぼすべく、原判決を破棄しなければ著しく正義に反する場合に当ると解すべきである。

よって、上告論旨について判断することを省略し、刑訴四一一条、四一三条本文に従い、原判決を破棄し、本件を原裁判所に差し戻すべきものとし、裁判官垂水克己の意見を除く他の裁判官一致の意見で主文のとおり判決する。

裁判官垂水克己の意見は、次のとおりである。本件のように第一審が犯罪の証明なしとして無罪を宣告した事実について控訴審が自判して有罪を宣告するには、その事実の取調をしなければ違法であるということはできないこと、昭和二六年(あ)二四三六号同三一年七月一八日大法廷判決記載の刑訴四〇〇条但書の解釈に関する裁判官田中耕太郎、同斎藤悠輔、同岩松三郎、同本村善太郎の少数意見のとおりであるから、本件職権調査の点に関し、原審の審判に違法ありとすべきでない。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己)

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